Distance and Proximity in Knowledge Sharing Networks
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The success of knowledge collaboration hinges on the proximities that knowledge workers have. This paper proposes a new conceptual framework of investigating the factors that affect knowledge collaboration based on four dimensions of proximities: cognitive, structural, organizational, and social. The effectiveness of the conceptual framework is illustrated through two examples: one uses the framework to analyze knowledge collaboration in software development, and the other uses it to guide the design of a new knowledge collaboration platform. 1. はじめに 知識の粘着性 (stickiness of knowledge) [18]は, 知識流通における大きな課題である.知識は,その知 識が創出されたコンテキストまたは所有されている個人 から切り離すことができない.流通元となるコンテキスト と流通先となるコンテキストの間の乖離が,流通の有 効性と効率性を大きく左右すると考えられる.この乖離 の度合いを,距離というメタフォーで捉えることができ る. ここでいう<距離>は,単なる物理的な存在として の空間的な距離という意味ではない.あるトコロから目 的のトコロまで,一つのモノを伝搬するコストを測る尺 度と解釈するべき概念である.物理的世界で物財を 流通させる際に考えるべき距離という概念は,流通の 目的や,手段とメディアなどによる多様な尺度を用い て表現される.例えば,トラックで物を A から B まで運 ぶ場合,A と B の地図上での直線距離ではなく,A と B までの幹線道路の長さの総和を距離の尺度としたり, あるいは,トラックではなく航空便で物を運ぶ場合には, A と B との各々の最寄り空港間の飛行距離を距離の 尺度としたりする.これらの距離に応じて,物財の流通 経路や梱包の仕方などが選定され工夫されている. 同様に知識流通ネットワークを分析したりデザインし たりする際にも,知識流通の目的と流通元と流通先で のコンテキストに関わる,<距離>というものを考慮す べきであろう. そして,その距離に応じた知識流通の させ方や,距離を尺度とした知識交換方式といったも のを考えようというのが我々の提案である. 知識流通は,以下のような点で物の流通とは異なる 特徴がある.物質は,同じ時刻には一つの空間にしか 存在できない.A から B に物が渡されると,その物は A のところに存在しなくなる.それに対して,知識交換と いう行為を行っても,A はその知識を失うことはない. また,物質には,流通により本質的な変化が生じる ことはない.物流において,Aの手元にあった物が Bの 元に渡った後も,同じ物として存在し続ける.それに対 し知識流通においては,複雑なプロセスが発生する. A が B に x というトピックに関して知識を伝えたという場 合, A が自分の頭にある x を取り出し,コミュニケーシ ョンメディアを通して,それを Bの頭に入植したことには ならない. A が x をコミュニケーションメディアに乗せる ために表出した時点と,B がそれを受け取って解釈し た時点の双方で,変換が施されてしまうことになる. 知識流通から知識獲得につながる一連のプロセス は,自分の持っている知識に新しい知識を単純に加 算するということではなく,既存の知識体系を修正した り,新しい連結を生み出したりするプロセスである. Brown は,水彩画のメタフォーを用いて知識獲得プロ セスを説明している.新しい知識を獲得するのは,水 彩画を描く際に新しい一筆を加えるのに等しい.加え た途端にそれまでにあった色と形に馴染んでしまい, その一筆の色も形も変化する.そしてもはやその一筆 が認識できなくなる[1]. また,知識流通における知識の発信側にも変化が 生じる.表出プロセスや知識を受け取った側の反応に より,自分の持っていた知識を修正したり考え直したり することが考えられる.それに加えて,この xについて B に伝えた,そのことを B も知っている,というメタレベル での新しい知識も生まれることになる. 以上は単なる知識伝達の説明であるが,議論など の知識交換では更に複雑な変換を伴う. このように,知識流通を考察する際には,表出され た表現やその表現を流通させるコミュニケーションメデ ィアのみに注目することは適切でない.知識交換に参 加する人間も含めた系として考慮する必要がある.誰 (who)が何 (what)をどういう手段 (how)を使って何のた め(for what)に誰 (to whom)に知識を伝えるのか,とい うことが,知識流通の本質を成す一部であると考えて いる. 我々は,who と to whom の関係が,知識流通にお ける距離と密接に関わると考えている.人間同士のコミ ュニケーションを円滑にさせるのは,コミュニケーション を行うために表出された内容(発話)の量ではなく,発 話がなくても相互理解があるという,共同主観の量に よるものである [17].知識流通に関わる人間の共通 経験が,知識流通の効果を左右する大きな要因であ ると考えられる. 2. 距離と近接性 本稿では,知識流通に関わる人間の間に存在する 諸関係が,知識流通の難易度と有効性を決める要因 であるとの立場をとる.そして,その関係の強弱を距離 というメタフォーを用いて捉えることとする.Gerstberger と Allenは,知識ワーカが,どの知識ソースに知識を求 めるかを決める際の最も大きな要因は,知識の質や最 適性ではなく,その知識ソースへの accessibility であ ると報告している[8]:“Engineers, in selecting among information channels, act in a manner which is intended not to maximize gain, but rather to minimize loss. The loss to be minimized is the cost in terms of effort.”すなわち,これらの距離が増えると, アクセスするためのエフォートが増加すると考えられる. より効果的な知識流通を促進するためには,知識流 通に関わる人に,コストの高さを感じたばかりに,ポテ ンシャルの高い知識にアクセスしようとしない,といった 事態を避けるようにすることが重要となると考えられる. 本稿では,知識流通の質に関わる距離として,認 知的,社会的,組織的,および構造的という,四つの 次元があると考えている.以下に各次元について説明 する. 2.1. 認知的な距離と近接性 認知的な距離とは,知識流通に関わる各知識ワー カが持っている知識の重なり合い具合を表す.知識ワ ーカの一般的な知識を抽象的に照合するものではな く,当該知識流通の目的となる問題を解決するために 必要となる知識のみに限定して比較されるべきもので ある.したがって,認知的な距離は,知識流通のコン テキストが決まってはじめてその距離が定まるようなも のである. 知識流通を促進するためには,参加する知識ワー カ間に,ある程度の認知的な近接性が必要となる.こ の認知的な近接性には,価値観の共有,背景知識の 共有,そしてこれらの共有への個々人のアウェアネス, という三つの側面があると考えられる. 人間は,通常,ある行動に価値があると判断した後 にその行動を取るものである[15].共有する価値観は, コミュニティの共同行動の基礎を築きその発展を支え るものとされている[2].流通される知識,そしてその知 識を利用して解決すべき共通問題に与えた価値が共 有されれば,知識ワーカが知識流通に関わるインセン ティブが高まる.オープンソースソフトウェア(OSS)に参 加するプログラマは,他のメンバーからの質問を受けた 際に,たとえその質問に答える知識を有していなくとも 自分で調査し回答する場合がよくあるとされている.こ の行為は,参加しているプロジェクトと,質問された問 題に対して与えた高い価値が,参加のインセンティブ を生み出すためであると説明されている[10][19]. 背景知識の共有が重要であることの説明として,ウ ィトゲンシュタイの次の引用がある: If a lion could speak, we could not understand him (Philosophical Investigations, II, xi, p.223).この理由は,われわれ にはライオンと共通する生活経験がなく,コミュニケー ションとなる共通基盤がないためである.コミュニケーシ ョンの有効性を図る基準は,コミュニケーションされる 情報の量ではなく,コミュニケーションをする必要のな い情報の量,で決まる.知識を受け取る側では,その 知識を組み取る能力 (absorptive capacity)が知識流 通の効果に大きく関わる.知識は体系化されたもので あり,新しい知識を理解し消化するためには予備知識 が必要となる.既存知識に,受け取った新しい知識を 受容するだけの接点がないと,この新しい知識の価値 を認識,あるいは理解することができなくなる.結果とし て知識流通は,ライオンと人間の対話のようになってし まい,知識流通はあるものの効果がまったくないことに なってしまう. 最後に,価値観や背景知識の共有という事実を, 流通に参加する知識ワーカがどれほど認識しているか も認知的な近接性に関わってくる.共有されているも のの,その共有に気づいていなければ,必要のない知 識交換が発生する.その結果,不要な交換コストを生 み出すのみならず,交換に参加する知識ワーカのイン センティブを低減させる恐れもある. I know he knows this という前提で発話されることと,I know he knows that I know this という前提で受け取ることは,知識流 通において重要な要因である. 認知的な距離があまりに遠ければ,知識流通は困 難になる.しかしながら,近接性は近ければ近いほど 良いといったことにもならない.極端に言うと,価値観 や背景知識が完全な形で共有されているとしたら,知 識流通はもはや必要ではなくなる.近すぎる近接性は group thinkに陥りやすく,型破りな break throughがで きなくなるといった弊害も考えられる.Hansen は weak tie が知識創造性を促進すると報告している[9].バラ ンスのとれた認知的な距離が,知識流通を効果的に おこなうための鍵となると考えられる. 2.2. 構造的な距離と近接性 構造的な距離とは,知識ワーカが他の知識ワーカ が持っている知識にアクセスする際の,コミュニケーシ ョンの難易度を表す.例えば,物理的な通信環境の 有無や,通信経路の帯域幅,通信速度や信頼性,通 信に用いるメディアの種類,用いる言語の種類,ある いは居住する地域のタイムゾーンなどが,構造的な距 離を規定する要因となる.構造的な次元での近接性 が全くないと,知識が流通する経路がないということに なる.情報通信技術の発達により,多様なコミュニケー ションメディアが利用できるようになり,知識流通におけ る構造的な近接性が大幅に改善されているといえ,タ イムゾーンや言語の問題など,未解決な課題も多い. 同じ場所にいる知識ワーカの間では,face to face (対面)のコミュニケーションが可能であるため,構造的 な近接性が一番高いと考えられている.しかしながら, 対面コミュニケーションがもっとも効果的な知識流通の 手段であるとは言い切れない.Face to face コミュニケ ーションはアーカイブできないので,その場で交換され た知識は蓄積できない.また,face to face コミュニケー ションはリアルタイムで行われるため,他の知識ワーカ のフローを妨げる interruption コストも高い. 知識流通を促進するために,常に face to face の構 造的な近接性を求める必要はない.コミュニケーション のコストと知識流通の目的の間にバランスを取る必要 がある.知識ワーカが意識的に face to face,メール, 電話などのコミュニケーションチャンネルを切り替えて, 目的にあう知識交換を行っていることが観察されてい る [14].コミュニケーションメディアにより生じる構造的 な距離と,知識流通の目的とコンテキストを統合に考 える必要がある. 2.3. 組織的な距離と近接性 組織的な距離とは,機構を持つ組織に属する知識 ワーカが通信する際の,組織の機構上に現れる経路 の長さを表すものである.組織横断的な知識流通の 促進は課題としてしばしば挙げられるが,これは知識 ワーカ間に存在する組織的な距離が一つの阻害要因 となっているためであると考えられる. 組織においては一般的に,効果的な運営を目的と して,ある基準によって組織を部門に分割しその部門 ごとに機構が作られている.企業の多くは,トランザク ション理論に基づき組織の機構化をおこなっている [13].つまり,企業内でのトランザクションコストを最も 合理化することを目的として,業務プロセスを切断し, そのプロセスにしたがって人員と資源を階層的に配置 する.こうした機構は,部門内のコミュニケーションを容 易にし,部門間のコミュニケーションは,それらの部門 の共通する上級ノードを経由することによりコミュニケ ーションとそのコストをコントロールする形になっている. 部門を階層的に設置することに伴い,知識ワーカの間 に組織的な距離が生まれてしまい,結果として知識流 通を阻害する要因となることも少なくない.たとえば, Nagappan らは,組織的な距離を測るメトリクスを提案し, それを使ってソフトウェアの品質を予測することに成功 している[12]. 2.4. 社会的な距離と近接性 社会的な距離は,知識流通に参加する知識ワーカ の間に存在する社会的なつながりを表し,パブリックな 役割により定められる距離と,個人間の親密度により 生まれる距離との二種類が考えられる. パブリックな役割が決める社会的な距離は,知識ワ ーカの間に存在する公人的な相互関係である.これら の関係では,おおやけの立場からみた仕事の担い手 としての側面が関わる.たとえば,先生と学生,上司と 部下などといった関係が挙げられる.こういった役割で 決まる社会的な距離は,おおやけの場で繰り返された 相互作用によって基準とされたものである.これらの基 準を知識流通に適切に取り入れることにより,知識交 換と協働作業が効果的に展開できると考えられる. Engerström は,このような知識交換ネットワークを knotworking と名づけ,手術室における協働作業のプ ロセスを説明している.手術に携わる各役割がはっきり 決められているので,初対面である医師や看護婦同 士であっても,その役割に規定されたタスクを履行す れば,手術をスムーズに協調して行うことができる[7]. しかしながら,知識流通は,常にすでに想定されて いる場面でのみ行われるわけではない.むしろ,アドホ ックに行わなければならない知識流通が主要である. こうした場合での知識流通には,知識ワーカの個人的 な相互関係,つまり,知人関係などのような個人間の 親密度が,知識流通に参加するインセンティブと知識 流通の効果を大きく左右すると考えられる.知識ワー カ間に存在する緊張した関係が知識流通を妨げる最 大の要因とされている [4].逆に,良い個人関係は下 記の側面から知識流通を大きく促進する. 相手に対する信頼が,交換された知識への信頼に 反映され,価値判断が容易になる. 信頼できる関係にあるため,物知らずで恥ずかしい, といった心配が減り,質問と回答をしやすくなる. 知識を提供するインセンティブが高くなる. 知識を提供する知識ワーカが積極的に参加するイン センティブがないと,知識交換が成立しない.Nahapiet and Ghoshal は,ソーシャルキャピタル理論を用いて, 知識ワーカに存在する社会的な近接性と,知識交換 に参加するインセンティブとの関係を解明する理論的 枠組みを提案している[13]. この理論の中心となる概念は,義務感と期待感であ る.知識ワーカが知識流通で他の知識ワーカから新し い知識を受け取った場合,知識を得た知識ワーカにソ ーシャルデビット(社会的な借り)が生じ,以後に自ら が進んで知識提供を行わないとならないという義務感 が生じる.一方,知識を提供した知識ワーカにはソー シャルクレジット(社会的な貸し)が生じ,以降助けても らえる期待感を持つ.組織の中でメンバーの間に繰り 返される,義務の遂行と期待のペイオフが,社会的な 規範に導かれ,すべてのメンバーに同じような行動を 要求し,知識流通に参加するインセンティブが向上す ると考えられる.知識流通を促進するためには,このよ うな個人的な社会関係に伴う義務と期待を,知識ワー カに意識させることが重要であると考えられる. 3. 事例 前章では,認知的,構造的,組織的および社会的 な距離と近接性という視点から,知識流通の成功を促 進したり損害したり要因を考察した.本章では,これに 技術的にどうアプローチすべきか,という点について, 事例を用いて説明をおこなう.ソフトウェア開発を知識 共創のドメインとしてとりあげ,ソフトウェア開発における 知識流通を分析する事例を 3.2 節で,デザインする事 例を 3.3 節で説明する. 3.1. 知識流通ネットワークとしてのソフトウェア プロジェクト ソフトウェア開発は知的共創作業を代表する分野で あると考えている[22].ひとつのソフトウェアプロジェクト は,ひとつの知識流通ネットワークを生成するとみなす ことができる.この知識流通ネットワークには,二種類 の知識ノードが存在する.第一は,知識が組み込まれ たアーティファクトとしてのプログラムファイルやドキュメ ントファイル,第二は,知識を持っている開発者である. プログラミングは,開発者が知識をアーティファクトに外 在化するプロセスであると考えられる.またプログラミン グは,他の開発者の作ったアーティファクトを利用した り参照したりすることにより,そのアーティファクトに組み 込まれた知識を獲得するという,知識がアーティファク トから開発者に内在化されるプロセスでもある.開発者 は,プログラムに関する知識を完全に外在化すること はできず[11],開発者が直接的なコミュニケーションを 通して暗黙知を交換することが,開発時においてきわ めて重要であることが報告されている[5]. Robillard らの研究によると,ソフトウェア開発者がプ ロジェクト開発に関する暗黙知を交換するためのコミュ ニケーションに費やした時間は開発時間の 41%をも占 める [16].これらの知識交換が必要となるのは,開発 者が抱えている開発タスク間に,多様な依存性が存 在するためであると考えられる[6]. 3.2. 近接性コングルエンス分析 ソフトウェア開発タスクは,組織の構造に沿って割り 当てられることが多い.これにより開発者の間に<組織 的>な距離と近接性が生じ,ソフトウェアプロジェクトの 形成した知識流通ネットワークに<組織的なコンフィギ ュレーション>を与えていると考えられる. また,開発者が抱えている開発タスク間に依存性が あれば,そのプロジェクトに関する知識にも重なりが多 くなり,開発者間に<認知的>な近接性があると考え られる.この認知的な近接性はソフトウェアプロジェクト の形成した知識流通ネットワークに,<認知的コンフィ ギュレーション>を与えると考えることもできる. 我々は,<組織的>,および<認知的>,という二 つの異なった距離と近接性により形成されたコンフィギ ュレーション間にどの程度の一致性があるかを,オー プンソースソフトウェア開発プロジェクトを事例として取 り上げ,分析をおこなった.プロジェクトにおける異なる 種類の距離と近接性間の一致性の有無が,そのプロ ジェクトにおける知識流通の実態を把握,理解,そし て改善するために重要であると考えたためである. 使 用 し たのは , Apache Httpd プ ロ ジ ェ ク ト の 2007/11/1 から 2008/1/31 までの期間中の,開発履歴 データである.開発者間の認知的な距離を,同一のア ーティファクトを,あらかじめ定めた一定の短い期間内 に同時にアクセスした回数の総和として計算した.組 織的な距離を求めるにあたっては,Apache プロジェク トではフォーマルな組織構造を有していないため,各 開発者が作業している場所により,国単位(米国の場 合は州単位)でひとつの組織としてみなすこととした. 計算手法の詳細は,[21]を参照されたい. 図1に,Apache Httpd プロジェクトにおける,組織的 近接性と認知的近接性を表す例を示す.各楕円が各 開発者を示し,同一の組織に属する開発者を四角で 囲っている.開発者間の実線は,それらの開発者間に 認知的近接性があることを示し,数字はその強さを示 す. このように組織的と認知的,二種類の近接性を同 時に表現することで,いくつかの洞察が得られる.第一 に,二種類の近接性の間の一致性の有無を調べるこ とができる.Conways’ law[3]は,組織構造が構築する システムの構造に与える影響を示唆するものであるが, 四つの次元の距離を考慮すれば,さらに踏み込んだ 分析が可能であると考えられる.第二に,どの開発者 がどの部門の開発者と緊密な連携を取っているか,と いったことを知ることができる.これらの開発者は部門 横断的な知識流通のゲートウェイ的な存在になってい ると考えられる.第三に,これらの異なる視点からの知 識流通の距離を考慮することで,プロジェクトと組織の 目的により適した,開発要員の配置や開発タスクの割 当をおこなうことができる. 図1では二つの次元の近接性だけを示しているが, 他の次元を加えてより深い分析をおこなうことも考えら れる.たとえば,グロバールプロジェクトでは,インター ネットコネクションの品質やタイムゾーンの差といったフ ァクターを構造的な距離として加えるなどである. 3.3. 知識流通ネットワークのデザイン 本節では,知識流通における,認知的および社 会的な近接性を考慮した,知識流通のためのコミュ ニケーションチャンネルのデザイン事例を説明する. 本事例で構築したのは,Java クラスライブラリを使用 する開発者が,ある Java ライブラリコンポーネントに 関する情報を開発者仲間から得るための,知識流 通ネットワークである. STeP_IN_Java[23]は,STeP_IN(Socio Technical Platform for In situ Networking)と呼ぶ,社会的関 係を考慮した知識交換の枠組みに基づき構築され た, Java クラスライブラリ学習支援環境である. STeP_IN の枠組みについての詳述は,[20]にある. 本節では,STeP_IN_Javaにおける知識流通ネットワ ークの仕組みについてのみ説明する. STeP_IN_Java を利用する開発者が,検索し閲覧 中のある Java ライブラリのコンポーネントについて,既 存の情報(ソースコードや使用プログラム例,ドキュメン トや過去にやりとりされた Q&A など)のみからでは満足 する情報を得られず,さらに誰かに尋ねたい疑問が出 てきたとする.各 Java ライブラリコンポーネントには, “Ask Expert”というボタンが付加されていて,開発者 がこのボタンをクリックすると,質問文を記述できるイン タフェースが現れる.ここに記述した質問文は,システ ム が動 的 に構 成 す る , ダ イ ナ ミ ッ ク コ ミ ュ ニ テ ィ (DynC:Dynamic Community) [24]と呼ぶ,質問を答 えてくれそうな開発者仲間から成るメーリングリストに投 稿される.このメーリングリストは,どの開発者が何につ いて質問しているのかという情報に基づき,認知的お よび社会的な距離を考慮して動的に生成される知識 流通のためのコミュニケーションチャンネルである. DynC の構成にあたっては,質問されている Java ラ イブラリコンポーネントに関する認知的距離を用いてま ず候補者を選定し,次に,質問している開発者との社 会的距離を用いて知識の交換に関わるべきと判断す る開発者を候補者の中から選定している. 認知的な距離を考慮するにあたっては,各開発者 がこれまでに開発した Javaプログラム内でこのコンポー ネントを使用した回数や,各自がそれぞれのコンポー ネントに対してどの程度の専門性を有していると思うか の自己評価などを利用している.社会的な距離を考 慮するにあたっては,質問する開発者との社会的近接 性,すなわち以前に助けてもらったことがあるか,メー ルなどでコミュニケーションをおこなったことがあるか, 個人的にその開発者を助けることは吝かではない旨を 明示的に表明しているか,といった情報を利用してい る.アルゴリズムの詳細については[23]を見られたい. 図 1: Apache Httpd における組織的近接性と 認知的近接性を同時に表示した例 DynC は,その開発者が,その Java ライブラリコンポ ーネントに関する質問を答えてもらうことのみを目的と して動的に作成される,知識流通のためのメーリングリ ストである.質問に対する回答もこのメーリングリストを 介したやりとりでおこなわれることを想定している.質問 者が,やりとりの結果疑問が解決したと判断したことを システムに対して示すと,そのメーリングリストは解消さ れ,やりとりの記録のみがアーカイブ化される. 4. おわりに 本稿では,知識流通を促進したり損害したりする要 因を,認知,構造,組織,そして社会といった四つの 次元に分け,距離と近接性のメタフォーを用いて考察 する枠組みを提案した.知的共創作業を代表するソフ トウェア開発を適用ドメインとして取り上げ,この枠組み に基づいて知識流通の実態を分析する方法,そして 新しい知識流通ネットワークを構築する方法を説明し た.今後は,四つの次元における距離を同定する機 構をそれぞれ開発すると共に,さらに多くのソフトウェア 開発プロジェクトに適用しながら,知識流通における 距離と近接性がどのように知識流通の質の向上に関 わるのかについて研究を進めたいと考えている. 参考文献 [1] Brown, J.S. and Duguid, P., The social life of information . 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تاریخ انتشار 2008